百日咳が流行しています
- 2025年5月1日
- 病気
国立健康危機管理研究機構のサーベイランスによると、百日咳の報告症例が増えています。年齢分布では特に10代の百日咳の割合が大きく増加しています。
百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。その名前の通り、咳が長く続くことが特徴で、特に小さなお子さんがかかると重症化することがあります。百日咳の症状は、経過とともに3つの段階に分かれ、約2~3か月で回復します。
カタル期(1~2週間):風邪によく似た症状が出ます。軽い咳、鼻水、くしゃみ、微熱などが見られます。この時期が最も感染力が強くなります。
痙咳(けいがい)期(2~4週間):特徴的な激しい咳が出始めます。「コンコンコン」と短い咳が何度も続き、息を吸い込むときに「ヒュー」という笛のような音が出ることがあります。咳き込みの後に嘔吐することもあります。夜間は咳が悪化する傾向にあります。乳児の場合、特徴的な咳が出にくく、無呼吸発作やチアノーゼ(顔色が悪くなる)を起こすことがあります。
回復期(数週間~数ヶ月):咳の回数や程度は減ってきますが、完全に消失するまでには時間がかかります。軽い刺激(運動や寒暖差など)で再び咳が出やすくなることがあります。
百日咳は、主に咳やくしゃみによって飛び散る飛沫に含まれる百日咳菌を吸い込むことで感染します(飛沫感染)。また、百日咳菌が付着した物に触れた手で口や鼻を触ることでも感染することがあります(接触感染)。非常に感染力が強い病気で、特に乳児では、肺炎や無呼吸発作、脳症といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。成人の場合でも、まれに肺炎などを合併することがあります。
診察で症状をお伺いし、医師が百日咳が疑われると判断した場合には検査を行うことがあります。鼻の奥を綿棒でぬぐって百日咳菌を検出する検査や、血液検査で抗体を調べる方法などがあります。当院では、PCR検査機器により1回の鼻咽頭拭い液の検体採取で、百日咳菌も含めて11種類のウイルスと4種類の細菌を同時に検出することができます。検査時間は15~20分程度ですが、この検査は一度に実施できる検査数に限りがあり、比較的費用がかかる検査になります(3割負担で約4,500円)。
百日咳の治療には抗菌薬が使われます。特に、カタル期や痙咳期の早期に抗菌薬を内服することで、菌を排除し、症状の軽減や感染力の低下が期待できます。ただし、痙咳期が長く続いている場合は、抗菌薬の効果が限定的になることもあります。その他に咳を和らげるお薬などが処方されることもあります。
百日咳を予防する最も有効な方法はワクチン接種です。日本では、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオを予防する四種混合ワクチン(DPT-IPVワクチン)、あるいはヒブを加えた五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hibワクチン)として定期接種が行われています。決められた時期にしっかりと接種することが大切です。また、お子さんの周りにいるご家族や、保育園・幼稚園、学校などで感染者が発生した場合は、咳エチケット(マスクの着用や手洗い)を徹底し、感染拡大を防ぐことも重要です。成人の百日咳はあまり症状も出ず自然と治まってしまう場合もあることから、気づかず感染を拡大させてしまうこともあります。
百日咳に似た症状を示す病気はいくつかありますが、それぞれ原因や治療方法が異なります。咳が続いている場合は呼吸器内科または内科などの医療機関にご相談ください。特に小さなお子さんに症状が出た場合は、速やかに小児科の医療機関を受診しましょう。